総特集 大友良英

otomojamjam2007-07-14

現在NHKドラマ「鬼太郎の見た玉砕〜水木しげるの戦争」の音楽のほうが佳境にはいってまして、ゆっくり日記を書く時間ないので、簡単になりますがユリイカ大友特集のお礼と感想を。


まずは執筆してくださったみなさん、対談や座談会に出てくださったみなさん、デザインをしてくれた弦人さん、そしてユリイカ編集部をはじめとした製作にかかわってくださったみなさん、ありがとうございました。


実はわたしの本を出したいという話は過去10年間、覚えているだけでも10本以上ありました。もっとあったかもしれません。何度も話し合いを持ったものから打診だけで立ち消えたものまでいろいろありますが、いずれにしろ、どれも実現したものはありませんでした。そもそもわたしは音楽家なのでCDを出したいとか録音したいという欲求はしっかりありますし、そのノウハウも知ってます。でも、本を出したい・・・という欲求はなくはないけど、でも大きなものではないし、自分の仕事の優先順位としては下位にならざるをえません。そんな自分の気持ちが見透かされてしまってなのか、結局は担当の人からいつのまにか連絡が来なくなり話は立ち消える、それがいつも本の完成に至らない自分の側の原因なのだろうと、まあ思っていたわけです。もっとはっきり言えば、わたしは協力も執筆もしますが、それ以上のことはノウハウもなくて出来ないし、なにより音楽をつくるほうが優先なので、そちらで出版のプロデュースをしてくれるならどうぞ・・・というスタンスでしか関われないわけで、きっとそれだと本は出ないのだ、そう思っておりました。


ところがです。今回はものすごい勢いで出たのです。正直、今回も立ち消えるだろうと思ってました。話があったのは今年の頭。わたしがもし入院をしていなければもう2ヶ月はやくでていたかもしれません。プロデュースをしたのは青土社の足立桃子さん。実質ほとんど彼女がとりしきって作った本です。今回ちゃんと出たのは、ひとつには、人選や内容の部分ではわたしがほとんど関わらなかったことも大きいかも知れません。大友特集ではあっても、大友が書いた本、企画した本ではないわけですから、いつも忙しく動き回っているオレにお伺いをたてずに済むわけですし。でもそれ以上に、足立さんが粘り強く動いてくれたことがものすごく大きかったと思います。一見、すごいおとなしそうなのに、驚くくらい頑固で粘り強いんだもの。じゃなければ、オレも、4本も対談や座談会をやったり、わざわざ実家まで行って昔の写真を探し出して、そこに文章を添えるなんでことはしなかったと思います。足立さんに感謝。ありがとう。広告ページのまったくない雑誌。こんなものが21世紀の、商品販売のための雑誌しかない時代に存在すること自体、わたしには驚きで、それを実現するためには、完全な労働基準法違反の環境の中で、それでもこういう本を作りたいという強い意思をもった個人がいなくては絶対に出来ないことです。足立さん、そういう本を作っているということ、誇りに思っていいと思います。でもオレのこと心配するのもいいけど、足立さんこそ今のままだと体壊しますよ。青土社さん、もっと労働条件のこと考えてあげましょうよ!



足立さんは作るに際して徹底していて、発売されるまで、他の人の書いた原稿を一切見せてくれませんでした。唯一例外は野々村さんのつくったディスコグラフィーの事実関係のチェックのみでした。なので、わたしもおととい手に入れるまで、みなさんと同じように大部分の原稿を読んでいません。 はじめて本を手にしたとき、実はページをめくるの怖かった。なに書かれてるやら・・・。でもひとつとしてひどい原稿はなかった。みな、わたしのことを凄い労力で書いてくれたわけで、本当に一字一句のがさず丁寧に全て読ませてもらいました。いいことも悪いことも、褒め言葉も批判も、なにもかも全部自分にまつわることです。正直、身もだえしたいような複雑な気持ちで読みました。 個々の内容については、これから反応したり、しなかったりすると思いますが、仮にこの先反応がなくとも、わたしは全部しっかりココロにとめながら読みました。執筆してくださった皆さん、本当にありがとうございました。


いわゆる音響とよばれたような音楽を一定の距離をもって見ることができる今だからこその内容が多かったと思います。興味深かったのは、何よりも、わたしのこと以上にそのことについてです。大友という、なんというか、どこにいるんだかはっきりしない、そのくせ発言の多い音楽家のことを語ることで、大友ではなく、今の混沌とした情況みたいなものが見える・・・そんな特集にもなっていると思いました。 わたしの写真館とかは軽い箸休めだと思ってください。無論、わたしは箸休めとか、あるいは娯楽というものは、本題と思われているものと同じくらい重要だとも思っていて、そこに上下などないと、強い意思で思っています。


わたしは今ほとんど音楽雑誌を読みません。まったく面白くないからです。情報はネットで充分手にはいるし、こと音楽雑誌に関しては、批評と呼べるものはものすごく少ないし、というかほとんどないし(わたしが言う批評とは清水俊彦さんが書いていたようなレベルのことを言います)なにより記事のほとんどはプロモーションがかかっているから載せる・・・という裏側が見えているものばかりだからです。大きな特集が組まれていたら、必ずその音楽の広告が沢山でているでしょ・・・要はカタログなわけです。
もう音楽の批評なんてものは細々とネットの中でだれかが行うくらいしかないのかも・・・と思ってわけですが、どうしてどうして、自分のこと云々は棚に上げて、今回の特集は、まずは今現在の音楽の情況についての非常に優れた批評になっている・・・という部分あると思います。特に杉本拓の文章。自分の生き方なり音楽になにかを突きつけてくるのでなくては、批評にはならいとおもうわけで、あの文章に対して、わたしはそれにふさわしい方法でわたしなりの返信を出さねばならぬ・・・と思っています。



書きたいことは他にも多々ありますが、今は時間がないので、このくらいに。48歳を前に素敵なプレゼントになりました。多謝!




写真は生家、横浜市保土ヶ谷区明神台団地42号館。生まれ育ったのは右上の406号室。今回の写真館の中には載せられなかった没テイクから