長崎俊一監督「闇打つ心臓」

昨日、監督、プロデューサー、録音部と音楽打ち合わせ。いよいよ本格的にこの作品のサントラにかかります。映画音楽というのは、通常の音楽をつくるプロセスやスキルとはまったく別のものである・・・というのがわたしの持論。ただしこれはハリウッド的な音楽のことではありません。ハリウッドの音楽はジャズやクラシックのスキルの上に成り立つもののような気がしていますが、わたしがやっているのは、根本的に異なる方法です。それはあえていえば、マリーシェファーなんかのミュージックコンクレートから出発したような発想で、要するに映像につく音を、声だろうが足音やら風の音やらの効果とよばれる音やら音楽やらも全て等価に考えて、最終的なミックス(映画ではダビングといいます)を前提に、音楽も風の音や台詞の一声と同じ音響素材である・・・という考え方を前提に作曲、録音していく方法です。その上で全体の映画の色合いやストーリー、監督の趣旨、出演者の動きやフィルムのスピード感なんかを考慮して全体の音楽デザインを考えていきます。この方法は別にあたらしいものではなくて、武満徹の70年代くらいまでの映画音楽はこの流れだと思います。出来上がった音楽が「カナリア」のように結果的にただの童謡のような5音で成り立つシンプルな曲だとしても、その音色を決定するために膨大な時間と予算を費やします。実際「カナリア」ではバスマリンバのほぼ単音だけでたったの2箇所このメロディがでてくるのみですが、ここに至るまでに、ものすごい時間と試行錯誤を繰り返しています。
今回の「闇打つ心臓」も、実は3月のツアー出発直前にラフの映像をもとにデモをつくっていて、ツアー中に編集の終わったDVDを送ってもらい、監督やプロデュサーとメールで打ち合わせをつづけていて、すでにメインの音楽の色彩や表情は概ねツアー中に決めていました。ミュージシャンの人選やスタジオのブッキングもすでにツアー中にすませていて、昨日は、もっとこまかい、どこにどういう風に音楽をいれるか・・・という打ち合わせでした。現時点では全部でM17(17箇所に音楽が入るという意味)。これは通常の音楽の少なめの映画のM20〜30よりもさらに少ない量ですが、ただし入れどころがかなり偏った方法をとっていて、少ないけれど、多分見終わった印象は、音楽と映像のテクスチャーがものすごく頭に残るようなものになるのではないかと思います。メインの曲も自分の中では非常にポップで強靭なものが出来上がっていると思っています。あとは具体的に17曲分これからどういう空気感、色合いにしていくか毎日映像を見ながらああでもない、こうでもないと試行錯誤を繰りリ返します。で、実際の録音は各曲に別バージョンを作るので多分全部で倍以上の40テイク近くを5月11日に1日で収録することになると思うのですが、これを1日でスムースに録音するために、各曲のタイム割り、テンポを綿密にチェックしながら、それぞれの作曲、およびアレンジにかかります。通常これらの作業には最低でも数日は要します。今回は録音までにライブやらリハやら他のアレンジやらが沢山はいっているので、かなりぎりぎりのスケジュール。そんなわけでもう今日から早速、着々と準備を進めます。詳細はおいおい日記に書きます。素晴らしく魅力的なメンバーによる素敵な音楽になりそうですよ〜。