無事帰還。で、今はたった4人の聴き手のための編集作業

otomojamjam2005-08-18

谷川岳一の倉沢および御巣鷹山から無事戻ってまいりました。


え〜と、でも山登りにはまったく興味ありませーん。人間がなんで山に登りたいのか・・・ということがまったく理解できないくらい、山にも自然にも興味ないですし。だいたい大自然も15分くらいは素敵だなとおもうのですが、でも、20分後には、ネオンの灯りのある夜の街に帰りたいな〜と思っちゃうくらいだもの。んなわけで、山のこととか、自然の素晴らしさを語る資格なんて一ミリもないオレっすが、でも訳あって谷川岳一の倉沢と御巣鷹山に登ってきました。

おかげで今日は筋肉痛っす。


前にもここでちらりと書きましたがNHKでやるクライマーズハイというドラマの音楽に先月からかかっています。これ、ある群馬の新聞記者の物語で(テレビでは佐藤浩一さんがやります)時は20年前。御巣鷹山日航が墜落したときの新聞社が舞台なのです。このドラマには御巣鷹山だけではなく、もうひとつのキーワードになる山、谷川岳一の倉沢にあるついたて岩も出てきます。そんなわけで、NHKのスタッフとともに2日間かけてこの両方の山を見に行くことにしました。
通常わたしはドラマの実際の舞台をあえて直接見ないようにしています。なぜなら実際に目に入る映像が全てだと思っていますから、その映像の外側については、わたしが情報を足すのではなく、あとは見る人にまかせられるようなつくりをしたい・・・というのがひとつと、実際の風景と映像はかなり違うので、その違いに足をすくわれたくないからです。
が、今回はスタッフと話し合った上で、台本を読んで、この2ヵ所に行くことにしました。今回テレビの中で実際の中心舞台となるのは山ではなく、むしろ新聞社です。ただその背景には常にこの2つの大きな山がそびえています。その背景となる山は実際に映像で映るものだけではなく、ときには音楽であったり、あるときは登場人物の表情だったりといったものの背景に常にあり続けます。となると音楽は映像を補填するのではなく、音楽単独で新聞社の外にある山の存在を示す必要も出てきて、つまりは、少なくとも山の部分に関しては映像に音をつけるのではなく、音そのものが、すでにこの2つの山のようなものとして存在しなくてはならずで、だから山のイメージは映像からわたしが感じるのではなく、私個人が感じ取った山を音楽にする必要があるのです。そんなこんなを考えた挙句、それと今回は実際に何百人もの方が亡くなっている話がモチーフですので、実際の事故現場に直接いってなんらかの挨拶をする必要があるだろう・・・という判断です。
わたしは霊の存在は信じるような信じないような、少なくとも宗教を介した霊との交流だけはごめんこうむりたいと思っている人間ですが、死というものと向き合うという意味での霊的なものは信じています。だからギターソロではてんとう虫の話をのせました。今回は直接墜落事故の現場がでてこなくとも、この事故をモチーフにした作品に関わる以上は、亡くなった方への挨拶をと思いました。こんなことを思うようになったのはもしかしたら歳をとった(死が近くなってきた)からなのかもしれませんが。
で、まあ、そう思ったまではいいのですが、山登りなんて生まれてこのかたまったく経験のないわたしがいきなり一の倉沢登山ができるわけがない。車でいけるところまでいって、素人でもはいれるところ(それでもロープがないと危険な岩場とかあるんですよ・・・泣)まで、歩いていって、そのものすごい絶壁と目の前の残雪を眺めてきました。
しかしですね、こんなすごい山を見てると、やっぱり分からないんです。なんでこんなところ登りたいって思うにかってことが。戦後この壁で何百人もの方か亡くなっています。その数は、日航の事故の死者を上回ります。ほんとうに分からない。命がけで岩を登るってのは、ものすごいシュールでアバンギャルドなことのような気もするのですが・・・でも、オレの好きなシュールさとは、なにか違うなあ。なんてことを最初は考えていたのですが、そのうち歩くのでいっぱいいっぱいで・・・はぁ、はぁ言ってるだけの生き物になってました。
でも登る際の肉体的なきつさでいったら御巣鷹山のほうがはるかに大変。とにかく急なのだ。今でこそ、すぐ近くまで車で入れるようになったとはいえ、それでも約1km近く急な山道を歩くのは、オレにはまじ辛かった。たかだか1kmって思うでしょ。でも3回くらい休みながらはぁはぁいって1時間弱かかったんですから。もちろん山になれた人にはどってことないみたいで、かなりご高齢の方とか、軽いピクニックのような格好で颯爽と登っていくんですよね。いかにオレが見掛け倒しのもやしっ子(懐かしい言い方だ)かっての痛いほど(本当に痛い)よ〜く、身にしみでわかりました。はぁ、はぁ、はぁ〜。
で、山の上については、とても日記に気軽に書けるような雰囲気ではないや。ちょっと重過ぎる。ただ、小雨の尾根の音をじーっと聴いていて、今回の音楽が単に山ということではなく、鎮魂のための音楽でもあるんだということを改めて考えたってことと、鎮魂ってのは死者に向けてのもののように思われるけど、結局は生き残ったもののためにあるんだという、至極当たり前のことをしっかりと実感してきた・・・ってことくらいは書いておかないと。今回の作曲の要はこのレクイエムにあるなって。



で、下界に下りてきて早々なにをやっているかというと、今日は京都Shin-biでやっていた「without records」展の際にターンテーブルとともに販売するアナログLPの音源の編集。レコードのないターンテーブルの音そのものがレコードになって、最終的には一緒になるという、これもある種のレクイエムです。今回売れたターンテーブルは3つ。ですから私自身を含めると、たった4人のためだけのレクイエムってことに。たった4人だけに聴かれる音楽。いつも不特定多数の未知の方に向けて録音作品をつくるのですが、こうやってほとんど手作りケーキでも届けるように録音作品を数点作る・・・ってのもいいものだな〜とウキウキした気持ちで編集の画面に向かっています。さ〜て、せっかく久々のアナログ盤ですから、いろいろ趣向を凝らそう。どんないたずらをしようかな。購入してくださった3名さん、お楽しみに。5枚しかプレスしないレア中のレア盤です。無論CD化もしません。多分9月中にはお手元に届くと思います。