ドルフィーのこと
エリック・ドルフィーの写真は少なくて、大抵は見たことがあるものだ。どれもものすごくかっこよくて、かつ、なんとなく優しそうな人柄をにじませている。彼のまだ見たことのない写真ってないのかなと、思ってネットを探してみたら一枚だけあった。ギル・エバンスが指揮していて、ドルフィーの頭と、スティーブ・レイシーの後姿が見えてるやつ。これって何の録音風景かな? 63年の『The Indeividualism of Gil Evans』のB面だろうか? 他に思いつかないなあ。今こんなメンバーのオーケストラを見ることが出来たら、オレ嬉しくて卒倒しちゃうだろうなあ。
なんでエリック・ドルフィーの『Out to Lunch』なのかということは、作った私自身の口から作品やライナーに書いてある以上のことはこまごまとは言う必要はないだろう。ただ、ジャケットになっている森山大道さんの2004年の新宿駅の写真・・・そう、あれ今現在の僕等が現実に暮している東京のリアルな風景なのです・・・のなかにも、同じような切実なものがあるような気がしている。
ライナーにも書いたけど、ドルフィーがあの作品を作った1964年のNYにその答えがあるのではなく、1970年代から80年代初頭にかけての新宿周辺と、今の僕等の生活している東京の現実の風景がぐしゃぐしゃに溶けたようなモノクロだけど4次元みたいな世界。ONJOの『Out to Lunch』を作っているときはそんな感触だった。風景が見えてきたわけではなく、そんなような場所をうろうろと逡巡しているような感覚。
80年代初頭、オレは歌舞伎町の裏の、ちょうと今菊地成孔が住んでいるあたりにあった小さなカセットテープのダビング工場で働いていて、なんだかそのコロのことやらと、今のことやらがぐるぐるしてきて、そんな感じに森山さんの写真はぴったりだった。
ギル・エバンスの指揮でドルフィーやレイシーが演奏してる・・・こんなの見たら卒倒しちゃうよ・・・って書いたけど、でも、もし自分の今のリアリティを考えて演奏するってなるとドルフィーやレイシーじゃなくて絶対に津上研太や大蔵雅彦、そしてアルフレッド・ハルトなのだ。オレはもう大好きで、大好きで仕方ないくらいのドルフィーの大ファンだけど、でも、オレの音楽と向き合ってくれて、今のオレに本当に必要な音を出してくれるのは今現在のONJOのメンバーたちだって、切実に思っている。
昨日のリハで彼等が音を出した瞬間にそう思った。
オレに必要なのは本物のジャズなどではなくて、自分と真摯に向き合ってくれて、オレのほうからも真摯に向き合える音楽をもっている音楽家たちとの馴れ合いではない関係なんだって。オレが東京に住み続けている理由、他の国にいく選択肢だっていくらでもあるのに、ここで今現在音楽を作り続けている理由はそこにしかない。
そんなことを考えながら、明日のリハにそなえて、アレンジや構成の練り直しをしている。