あと数時間後に「without records」展オープンです

otomojamjam2007-01-11

昨夜9時、無事に展示の準備終了。66台の強烈な個性をもったポータブルプレイヤーたちが、それぞれの固有の音を鳴らし出しています。全部のプレイヤーが鳴り出した時には、ココロの中で思わず「わ〜〜〜〜い」と10回は叫んでしまいました。嬉しい!!! 本当にめちゃくちゃ嬉しい!!! 





オープンスペースの巨大な、高い天井の会場でランダムにスイッチのオンオフを繰り広げる66台のプレイヤーの音は、予想以上にはるかに柔らかくて、繊細で、やさしい響きです。といっても、一台一台の音を近寄ってよくよく聴いていくと、実はとても硬質な、厳しい響きをしています。一つ一つはとても厳しい音をしていながら、全体としてはやわらかい響き。今、全体と書いてしまったけど、実は、全体の音というのも聴く場所でまったく違う響きをしています。これからの2週間、この音たちを、会場に来てくれた人たちはどお聴いてくれるのか、この展示をどう見てくれるのか、とっても楽しみです。ブログを書いたりしている方は、遠慮なく感想アップして、出来ればトラックバックしてください。



今回の展示の話を美術家の青山泰知とはじめたのは3年ほど前。実は京都でやった「without records」展の前だったのだ。とはいうものの、その時点では「without records」というような具体的なプランがあったわけではなく、青山さんとなにかコラボレーションを・・・という話だった。で、紆余曲折いろいろあって、今回の話が具体的に動き出したのは1年ちょい前。京都でやった「without records」展を受ける形で、オレはサウンドインスタレーションサウンドの部分を、青山さんが視覚や展示の部分をそれぞれ責任もって担当する形ではじまったのが今回の企画。一応オレの単独の名前になってはいるけど、今回ははっきりと2人のコラボレーションだと思っている。
考えてみれば青山さんといろいろ共同作業をやり出したのは15年くらい前。90年代後半にはDJ-Tranquirizerという名前のまったく踊れない、起承転結もほぼない、物音だけみたいなDJチームも組んでいた。それが、ちゃんとつながる形で、今回のような作品に結実したんだなあ・・・って思うとちょっと感無量。



今回これだけ大きな展示がスムースに上手くいったのは、メディアテークの担当小川直人さんと青山さんが、事前に充分にコンセンサスを取っていてくれたことと、込み入った技術面でテクニシャンの金築浩史さんが全面協力してくれたこと、そして非常に優秀かつ個性的なボランティアスタッフが集まってくれたことが大きかった。



あとは、数時間後、1月11日正午の開始を待つばかり。
チラシにも書いた今回のテクスト、下につけておきます。



※ 13日のソロ、14日のI.S.O.と展示のコラボレーション、いずれも当日券でます。出ますが、混雑も予想されますので、なるべく事前の前売り購入をおすすめします。ソロのほうは2つのギターフィードバックによるモジュレーション、および新作の2ターンテーブルによる作品。I.S.O.のほうは展示会場で、展示の音ともに演奏します。
なを15日の山形、16日の郡山での公演のほうは、まったく別プログラムで、メンバーそれぞれのソロを1st set、2nd setに従来のPAをまったく使わない形のI.S.O.の単独公演をおこないます。東北ではほぼ初めてともいえる公演です。こちらのほうもあわせてよろしくお願いします。


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記録なき記憶

  • 66台のポータブル・レコード・プレーヤーによる無人オーケストラ-

大友良英


ポータブル・レコード・プレーヤー。1950年代後半から70年代にかけてのほんの四半世紀の間、お茶の間に、勉強部屋に音楽を届けてくれたこの小さな機械たち。ラジオやテレビのように今日に受け継がれることもなく、80年代にはラジカセやウォークマンにその座を奪われ、今やiPodに主流が移ってしまったパーソナルな音楽聴取は、実はこの愛すべきかわいい機械たちによってはじまった。特にドーナツ盤と呼ばれるシングル・レコードが爆発的に売れた60年代、ポータブル・プレーヤー達は庶民の音楽聴取の主役ですらあった。かくいう私自身にとっても、最初の音楽聴取の記憶は母親の実家にあったポータブル・プレーヤーで繰り返し聴いた坂本九の『悲しき60歳』。1962年、3歳のときだ。


街中の小さな古道具屋に忘れられたかのようにほこりをかぶって500円で売られていたこの機械たちを買い集めだしたのは、ちょうど世の中がレコードからCDに変わる80年代中ごろ。最初はステージでかわった音を出す演奏用として、しかし、その後は、ただただ、この忘れ去られたチープな機械がいとおしくて収集しだした。もっとも、この収集は、狭い住宅事情の壁にぶちあたってあきらめざるを得なかった。それでも写真だけはせっせと集め続けた。私のブログ『JAMJAM日記』に掲載されている膨大な量の写真がそれだ。この写真を見て声をかけてくれた人がいた。
「この膨大な数のプレーヤーを使ってなにかしませんか?」
すでに余生すら終えたようなプレーヤー達になにができるのだろうか? 彼等が得意としたドーナツ盤は、すでに現在の音楽をリリースしているわけではない。古い音楽をかけてノスタルジーをかもし出すのもいいけど、それも私の役目ではなさそうだし、ドーナツ盤でコラージュをしたら主役はプレーヤーではなくなってしまう。私がやりたかったのは彼等を使った今現在の音楽だ。


2005年、京都の小さなギャラリーであるshin-biでやった『without record』は、こうしてはじまった。レコードという音の記憶媒体そのものを使うのではなく、ポータブル・レコード・プレーヤーという、見た目だけでも高度成長期の記憶が詰まっている機械そのものが出す音を使えないだろうか。私には、その寿命を終えたにもかかわらず、軋みながら回転するモーターや、レコードをかけなくてもノイズを拾うカートリッジ、フィードバックしてしまうスピーカーの壊れかけの音が、その生命力を主張しているかのように聴こえていた。レコードがなくても、彼等の出す音は充分に美しく私を魅了した。元気に音を出し続ける彼等を使ったアンサンブルができないだろうか。これがこの作品のきっかけとなった。
京都のあとは、北九州のギャラリーSOAPの人たちが中心なって『web版 without record』を。こうして、忘れさられたプレーヤー達は、今現在の私の作品を演奏してくれる無人楽団として息を吹き返した。といっても、もちろん優雅な、クラシックのような音楽を奏でるアンサンブルではない。それでも、彼らから聴こえるノイズたちは、私にとっては、電気技師を父にもち、そんな音があふれていた家を思い出させてくれる、充分にノスタルジックで多幸感に満ちた音だ。


京都でやった最初のwithout record展は16人編成の室内楽といった趣だったけれど、今回仙台で行われるのは66人編成のフルオーケストラだ。頭の中で、どんな音のなるのか、どんな景色になるのか想像してはみても、実際に66人がそろって音を出してくれないことには、私にもどんなものになるのか見当もつかない。実際に音を奏でる現場は無人だけれど、実は、そこに行くまでの過程で多くの人たちの手をわずらわせている。今回の企画のプロデュースを側面で支え、展示デザインを担当してくれるstore15novの美術家・青山泰知さん、実際のシステムを構築してくれるテクニシャンの金築浩史さんのチーム、そして総合プロデュースをしてくれるせんだいメディアテークの小川直人さんをはじめとしたみなさんの力を借りて、少しづつ、プロジェクトが進行しつつある。いったいどんなオーケストラになるのか、1月が楽しみだ。

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大友良英 [ without records ] 展


2007年1月11日(木)ー1月24日(水)
12:00-20:00 (最終日は18:00終了予定)
せんだいメディアテーク1階オープンスクエア/入場無料
※期間中ウェブサイトで会場の様子を配信予
http://www.smt.jp/wr/japanese/streaming.html

■関連企画ライヴ
大友良英ソロ /2ギターのフィードバックによる作品、2台のターンテーブルによる作品(新作)
 2007年1月13日(土) 開場18:30/開演19:00
 7階スタジオシアター
I.S.O (一楽儀光/Sachiko M/大友良英)
 2007年1月14日(日) 開場16:30/開演17:00
 1階オープンスクエア(展示会場内)
※ライヴ・チケット=2日間通し券のみ [限定CDR仕様]/2800円
※ライヴ・チケットは、STORE15NOV (http://www.store15nov.com) と、せんだいメディアテーク1階ナディッフビスにて発売中。
◎公式サイト/http://www.smt.jp/wr/

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I.S.O.山形公演  出演 一楽儀光/Sachiko M/大友良英
□日 時/2007.01.15(月)開場19:00 開演19:30
□会 場/蔵オビハチ「灯蔵」
http://ojisho.com/kuraobi.html
□入場料/前売3,500円 当日4,000円(共に1ドリンク付)
□問合せ/023-626-2737



I.S.O.郡山公演  出演 一楽儀光/Sachiko M/大友良英
□日 時/2007.01.16(火)開場19:00 開演19:30
□会 場/PEAK ACTION
http://peak-action.jp/
□入場料/前売3,500円 当日4,000円(共に1ドリンク付)
□問合せ/LIVE STAGE PEAK ACTION 024-991-0533