希望ということ

先日も書いた放射線の問題は、ひとりで悩んだり、ネットを見ていろんな意見を参考にしても、そのあまりのバライティ具合にラチが開かないというか、どう判断していいか分からない・・・というのが正直な気持ちでした。素人が判断するにはネット上にあまりにも情報が溢れすぎている。気をつけなければ自分に都合の良い情報や逆に極端にネガティブな情報だけを拾う事になりかねない。


風評被害を防ぐには、正しい知識と正しい情報の把握以外はない・・・というのはオレでもわかるわけだけど、いざ自分が判断しようとするときに、なにが正しい知識で正しい情報なのかが、本当にわかりにくい。ましてや政府の言っている事が本当に正しい情報なのかどうかに疑問を持ってしまったら、なにを信じていいのかわかならないし、逆にネットにあふれる自分に都合の良い意見だけを信じてしまえば下手をすれば科学の衣をまとった宗教を信じるような過ちを犯しかねない。やはりどう考えても、フェスをやるにしろなんにしろ福島でプロジェクトをやる以上は放射線に関する専門家のサポート、助言は必要不可欠だろうと考えていました。でも誰を信じればいいのだろうか。


そんなときに見たのがNHKの『ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」〜福島原発事故から2ヶ月〜』という番組です。ここには私が小学校3年から大学入学までの10年間暮らした福島市の渡利地区も放射線量の高い場所として出てきます。テレビに写る渡利地区全てがわたしには馴染みの場所で、強烈に複雑な思いで番組をみつづけました。現実を正面から見るというのは楽なことじゃない。この楽じゃない現実をつきつけてくる調査をしているのが放射線衛生学者の木村真三さんです。
番組はこう伝えます。

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木村さんはかつて放射線医学総合研究所に務め、東海村臨界事故の調査を手がけました。その後厚生労働相の研究所に移り、自主的にチェルノブイリの調査にでかけました。
今度の事故が起こると職場の幹部は自発的な調査をしないよう指示。木村さんは辞表を出しました。
「今までチェルノブイリ東海村臨界事故、うん、そういうものにずーっとかかわってきた。」
「その事故というものが起きるであろうという想定のもとにやってきた研究が、一切、そのフィードバックできない。指示がでないと動けないという窮屈感というものが、ものすごく大きくありました」

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まだ見てない方は再放送が 5/28(土)NHK教育テレビで午後3時からあるのでぜひ見てほしい。(NHKオンデマンドでも見れます)
隠蔽された分かりにくい情報よりも、放射能は直ちに健康に被害は無いし心配ないと言われ続けるよりよりも、わたしが求めていたのは、厳しいかもしれないけれど、でも専門家がフィールドワークをした上でだしてくるこうした情報でした。正しい情報がなければなにも判断できないし、それがたとえ過酷なものだとしても、そこを正面から見据えることからしか、福島の震災と人災からの復興と未来はないとわたしは強く思っているからです。


木村さんに助言をいただけないだろうか。できればフェス会場の線量調査もやってもらい、フェスでも発言してもらえないだろうか。この番組を見てそんな思いを強くしました。


プロジェクトFUKUSHIMA!のメンバーでNHKのディレクターでもあり福島出身でもある山岸氏の尽力と仲介で、その木村さんに今日会う事が出来ました。テレビで見たそのままの飾らない人柄の方です。様々な情報を交換したのち木村さんの口から「フェスやることは可能ですよ、やるべきです」という言葉とともに、被害を受けた人たちは我慢するんじゃなく積極的にうってでるべきです、うってでましょうよ、そのためにわたしたち専門家がいるんですから・・・という言葉を受けたときには、その場で泣いてしまって・・・。もちろんそれは、単に無闇に大丈夫というような話ではなく、どういう方法でやるべきかという厳しい視点があっての話です。福島の子供たちの問題もそこには当然あります。1年2年の話ではなく、何十年、もしかしたら100年単位の戦いになるかもしれないような話でもあります。具体的な動きは、この先書いて行きます。ただ、僕らは諦めずに前に行ってもいいんだ・・・ということが具体的な方法とともに見えただけでもわたしには大きな一日でした。




プロジェクトFUKUSHIMA!を立ち上げた時、わたしは文化の側からやれること・・・というようなことを考えていました。でも今回の事態を前にして、やはり科学の力がなければ本当になにも動けないのも切実に感じています。正しい知識と、正確な現状把握があって初めて文化にやれることが見えてくる・・・そう思っています。
先日も学校のようなことも平行してやっていきたいと書きました。学校でやるのは、福島の現状の中でどう生きてくかを一緒に考えてくことです。そのなかには現状をどう見るかという視点も当然含まれます。木村さんの協力を得られるというのはこの部分で、ぼくらは出発点にたてるんだ・・・という意味でもあるとわたしは思っています。