悩まない訳が無い

放射線量の高い福島に人を集めてフェスをやることがいいのかどうか、悩まない訳がない。実際ものすごく悩んでいる。一人で悩んでいるだけでなく、いろいろな人に相談しつつ悩んでいる。


公表されてる数字で市内中心部が1.5マイクロシーベルト(μSv)前後、小学校の校庭では3μSvを超えてるところもある。会場予定地の市内西側に位置する四季の里周辺は0.3μSvではあるが、芝生の上ではそれ以上の数字を示す可能性が高いし、線量の高いホットスポットもあるかもしれない。この数字をどう解釈すべきかは、実際に計った数字をもとにプロジェクトFUKSUHIMA!の公式な見解をなるべく早めに出そうと思っているので、これから書く事は、あくまでも現時点での個人的な見解だと思って読んでほしい。


まず、情況が今より悪くならないという前提で、現時点でのわたしの見解は、
「福島でフェスを8月15日に開く。ただし来る人は、放射線量を確認しつつ自分で判断して来てほしい。もし、怖いなと思ったら決して無理をしないでほしい。県外から子供をつれてこないほうがいい。」
なのだ。


5月8日の公表以降、まだ内容もほとんど明かしていないのに、フェスティバル「FUKSUHIMA!」の反響はものすごいものがあって、本当にありがたいなと思う反面、非常に複雑な気持ちなのだ。さっきも書いたように放射線量の問題がなによりも大きく僕らにのしかかっている。ここに本当に人を集めていいのだろうかと。それに会場の広さを考えると1万人以上の人を入れるのはそもそも物理的に難しい。でも、このままだとそれ以上来てしまうかもしれない。そう考えると、現時点でわたしに言えるのは
「フェスはやるけど、みんななるべく来ないでほしい」
というフェスを企画する者としてはきわめておかしな結論なのだ。


新聞やテレビニュースでは「福島を応援する・・・」とか出てしまったけど、僕らはその種のイベントをしたいのではない。福島のあまりに過酷な現状とどう向き合うか・・・この情況でいったいどう生きて行くのか・・・というのが大きなテーマなわけで、素敵なミュージシャンが沢山きて福島を応援とか、福島の復興を印象づけるとかをしたいわけでは全然ないのだ。福島の置かれている情況はそんな呑気なものではなく、非人道的な事態が起こっていて、でもそれはとってもわかりにくいもので、そこに住む人たちは日々この情況と戦っていると言っても過言ではないからだ。


プロジェクトFUKUSHIMA! の活動の大きな柱は、5月8日にはじまったustreamTV局のDOMMUNE FUKSUHIAM!と、7月に開校を予定してるスクールFUKUSHIMA!(仮名称)そして、もうじき始まる音源ほか作品の配信サイトDIY FUKUSHIMA! だ。福島を孤立させないこと、そして、福島からなにかを発信する、福島で起こってる事態をふまえ、福島の人たちの意見をしっかりと独自メディアで伝える。これがDOMMUNE FUKSUHIAM!の大きな目的だ。
一方、スクールFUKUSHIMA!の方は福島の現状をどうとらえ、そこでどう生きて行くのか、あるいはこの現状の中でどんな作品を作って行くのかを、先生生徒という関係ではなく、一緒に考えていくための場にできればと思っている。これまでにない情況の中で、もしそこで生きて行くと決断した人がいるなら、どうやって生きていくべきかを模索する必要があると思うからだ。仮に今は住めないとなったとしても、どうやって次を見つけるかを考えて行く必要がある。
できることなら夏休みに林間学校とかもひらいて福島の子供たちを少しでも放射線の少ない場所につれて行くプロジェクトも出来ないかと思ってる。
そしてDIY FUKUSHIMA! はそんな中で生まれた作品の発表の場になればいいと思うし、また活動資金を集めるための支援サイトになればいいと思ってる。これらはいずれも長期スパンで考えているプロジェクトなのだ。



そして、もうひとつの大切な柱が「祭り」「フェス」だと思ってる。ここにそのまま住むと決めた人にも、ここを出て行こうと決めた人にも、どちらとも決めかねている人にも、それでも祭りは必要だと思ってる。もちろん従来の祭りもいい。でも、古典的なコミュニティだけではなく、オルタナティブな文化で育ってしまった人たちには、そうした祭りも必要なのではなかろうか。そして大きな祭りだけではなく、週末のつかの間の祭りだって必要だ。
福島に住んでいる人たちに対してなぜ疎開をしないのか、なぜ出ないのか・・・という意見があることも知っている。たしかに住むには過酷な現状かもしれない。特に子供は少しでも福島を離れた方がいいのではと私は思う。しかし一方で、そう簡単に出れない人たちがいることも知っている。わたしはこの情況の中で住み続ける選択をすることを応援するつもりはないが、でも、それでも住もうと決めている人が沢山いるなら、その人たちと現状を見る事を逃げずに、どうやって生きていけばいいのかを考えていく場を作る必要はあると思っている。どうやればより良い選択になるのだろうか。本当にわからないけど、最初から結論ありきではなく、一緒に考える場が必要だと思う。出来れば福島の人だけでなく、福島の外の人たちと一緒にだ。こんなとんでもない事態を福島の人だけが背負うのはあまりに過酷すぎる。せめて少しの荷物だけでも、余裕のある人は背負ってくれないだろうか。で、一緒に考えてくれないだろうか・・・というのが学校をやろうと思ったり、ustreamTV局をつくったりフェスをやろうと思ってる正直な理由だ。だから、なるべくなら来ないでほしい・・・と書いておきながら、一方で、矛盾してるかもしれないが、でも福島の外の人にもきてもらって、この現状を見て、一緒に考えてほしいとも思ってる。



こう書いていても自分の中でも毎日考えがゆれている。私だけでなくスタッフの皆もゆれていると思う。ぎりぎりまで開催の可否はゆれるのではないかと思う。どういう内容のフェスがいいのかもぎりぎりまでゆれ続けると思う。それでもそういった迷いも含めて、隠さずにここに書いていこうかとも思ってる。そのことにもきっと意味があると思うからだ。



この2週間の間だけでも、沢山のみなさんから、本当に沢山のメールや電話をもらっている。メールボックスがパンクしてしまい、電話も返しが出来ない日がつづいている。そのくらい皆が興味をもってくれているということだと思う。このエネルギーをいい方向にむけられればいいなと素朴に思っている。