アクセルは、大袈裟でもなんでもなくわたしが最も注目している、
そして最高にリスペクトしているトランペッターだ。この数年、
世界的に大きな注目を集める旧東ベルリン地域の即興シーンのパイ
オニア的存在であることは言うにおよばず、古くからのフリージ
ャズファンにとってもFMP関係での活動をはじめなじみの深い名前
だろう。アクセルの独自の即興スタイルのものすごさについては、
一昨年の来日時、明大前のキッドアイラックで彼のトランペットソロ
を目撃した人ならきっとわかってくれると思う。今現在の即興音楽
にあって、ここまでの演奏技術のクオリティーを維持しつつ、果敢
に即興演奏の未知の領域に挑み続けている演奏家は世界中見渡して
も稀有だ。

フリージャズ以降、とんと冴えたところのなかったトランペットと
いう楽器を根本から捕らえなおして、まずは息をおくる管として
再解釈しなおした上に、独自の空間的な解釈を加えた彼の即興演
奏は、多分、フリーとか、ジャズとか現代音楽といった文脈抜き
でも、充分にたのしめるのではないだろうか。この楽器にこんな
可能性がのこされていたのか・・・という感嘆が、まずはわたしが
彼の現在の演奏に初めて接したときの偽らざる感想だった。その後
2001年にカナダで見たアクセル、ジョン・ブッチャー(sax)、
クザビエ・シャルル(clarinet)のアコースティックトリオはさらに
驚異的で、1時間のコンサートがおわったあとには腰が抜けるくらい
感動した。完全なアコースティックの状態で3人の管楽器奏者の出す
音が、まるで化学反応のようにモジュレーションを起こしたり、
溶け合ったりしながら、ときに演奏家は静止しているのに独立した
3つ以上の音がパンニング(音の位置の移動のこと)するなんて初
めての経験だったし、なにより、演奏がある語彙で行われるのでは
なく、まるで空気の振動の状態を時々刻々と変化させていくだけで、
しかもそれが即興でおこっていることも驚きだった。技術的な話は
ともかく、まずは音楽(と呼んでよければ)としてほんとうにすば
らしかったし、ベイリー以降の欧州即興音楽のクリシェのようなも
のがほとんど感じられなかったのにも感嘆した。いまさら使うのも
はばかれる言葉だが「音響的」とは、言葉の本来の意味から言ったら、
こういう音楽にこそ相応しい。

彼の本領はそれだけではない。現代音楽の分野やジャズの分野でも
今現在もクオリティの高い活動をしていて、音楽家には2通りあって
ひとつのことだけをやっていくタイプと、同時にいくつものことを
平行してやっていくタイプとがあると思うのだが、彼は間違いなく
後者で、その部分でもシンパシーを感じている。

実は彼とは、これまでさほど共演してきていない。一緒にレストラ
ンに行った回数のほいがはるかに多いくらいだ。ぼくらはベルリン
をはじめ世界各地で、よく一緒に飯を食べに行く。中華、イタリア
ン、日本食ギリシャ料理、ターキッシュ・・・それこそありと
あらゆるレストランに一緒にいった。でも共演となると数回、そ
れも大きな編成で一緒にやったりってことが多くて、がっつりと
四つに組んでやったのは多分2〜3回ではなかろうか。それでも、
いつか彼とはジャズでも、即興演奏でも、しっかりと共演したい
と切実に思っていた。
今回1月20日は彼に好きにやってもらうセッションをお願いした。
彼のリクエストはジャズのベテランベーシスト井野信義とのDUO。
ここでの彼は、多分まだ日本ではあまり見せていない、ジャズメン
としての顔を見せてくれるはずだ。もうひとつのセットは、彼の
本領ともいえるいわゆる「音響的」な即興演奏。今回は私のほか
に、彼とも共演経験があって親友でもあるサックスの大蔵雅彦
サイン波のSachikoMのカルテットでの出演となる。このセット、
わたし個人としては今回一番楽しみなセットでもある。19日や
22,23日のアンサンブルやオーケストラのセットで起こること
とはまた別の、1回しか起こらない新しい出来事が起こることに
わたしは期待している。

次回は日本ではまったく無名の、しうしわたしが世界一好きな
ピアニスト、冬でもサンダル履きで世界を旅する自由人コル・
フラーについて書きます〜。

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アクセルとは今年の秋ドイツのドナウエシンゲン現代音楽際で、
ラディアンのドラマー、マーティン・ブランドルマイヤー、
SachikoM、そしてわたしの4人でバンドを組んで出演する予定。
このあともいろいろと共演がまっていそうです。

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1月19日(水)〜23日(日)
OTOMO YOSHIHIDE's NEW JAZZ FESTIVAL
新宿PITINN 電話 03-3354-2024
http://www.pit-inn.com/
(注;PTINNのWEBのアドレスが新しくなってました)


1月19日(水)
●OTOMO YOSHIHIDE'S NEW JAZZ ENSEMBLE
plays Eric Dolphy「Out to Lunch」:
大友良英(g)、アクセル・ドゥナー(tp /from Berlin)、
津上研太(as,ss)、アルフレート・ハルト(ts,b-cl /from Seoul)、
マッツ・グスタフソン(bs /fromStockholm)Sachiko M(sine waves)、
高良久美子(vib)、水谷浩章(b)、芳垣安洋(ds,tp)

1月20日(木)
アクセル・ドゥナー (tp) 井野信義(b) DUO
アクセル・ドゥナー(tp)、大友良英(turntable)、
Sachiko M(sine waves)、大蔵雅彦(reeds) Quartet
●コル・フラー(p / from Amsterdam)秋山徹次(g)
マッツ・グスタフソン(bs)Trio
●コル・フラー(p )大友良英(turntable)Duo

21日(金)
アルフレート・ハルト(electronics)杉本拓(g)吉田アミ(vo)Trio
●マッツ・グスタフソン(bs),大友良英(turntable & g )Solo&Duo
大友良英作曲作品
芳垣安洋(perc),SachikoM(sine waves) 伊東篤宏(optron)
大友良英(TT)宇波拓(computer) 中村としまる(no-input mixer)

1月22日23日(土、日)
●OTOMO YOSHIHIDE'S NEW JAZZ ORCHESTRA:
大友良英(g)、アクセル・ドゥナー(tp)、津上研太(as,ss)、
アルフレート・ハルト(ts,b-cl)、マッツ・グスタフソン(bs)、
青木タイセイ(tb)、石川高(笙)、コル・フラー(p)
Sachiko M(sine waves)、高良久美子(vib)、
水谷浩章(b)、芳垣安洋(ds,tp)
スペシャルゲスト カヒミ・カリィ(vo)  他特別ゲストあり


19日、20日、21日:各3,500円 / 22日、23日:各4,000円 /
5日間通し券:16,000円
新宿ピットインにて、チケット前売りおよび予約受付中