10月21〜23日 フランス Densites Festival

さて今回の欧州ツアーですが、モスクワのDOMでの演奏にはじまり、バーデンバーデンのドイツ南西放送での録音合宿、ドナウエッシンゲン現代音楽祭をこなして、オランダでライブののち、最後はフランスのヴェルダン近くの人口800人の村で行われたDensites Festivalに出て帰ってまいりました。で、ここでは日記に書けなかったDensites Festivalの報告を。

このフェスは90年代からやっていて、わたしは5年ぶり3度目。女性オーガナイザーのエマニュエル・ペレグリニを中心に、わたの大好きなミュージシャンのザビエ・シャルルやジャン・フリップ・グロスなんかが運営している小さいフェスで、会場は300人規模かな。ドイツやルクセンブルグ国境にも近いので、フランスだけではなく、いろいろな国から観客がやってくる。いろいろな国といっても、今や西ヨーロッパには、実質国境はなくて、日本の県境程度に「ここからフランスですよ」みたいな標識があるだけ。20世紀前半までは、血で血を洗うような殺戮戦争を繰り返していたドイツとフランスの国境が、こんなになって同じ貨幣を使うようになっちゃうんだから、人類の英知も、ひどいことばかりではないって思うけどね。
フェスのほうは3日間で20コンサート。ソロを除き、大部分は初共演の人たちのコラボレーションに焦点をあてている。他にもインスタレーションがあったり、カフェがあったり、CDショップが出ていたりと、小さいけれど、立派にフェスしているのだ。オレは、この手の手作りっぽい小さいフェスが大好きだ。え〜と、今回は沢山見たので、その中で印象に残ったものを中心に、ちょっとレポート風に。だいたいこんなレポは、ミュージシャンがやることじゃなくて、音楽ジャーナリストがすべきだと思うんだけど、なにしろ日本は遠いしで、だれもレポートになんか来ないから、せめて報告くらいしないと。日本にいると、わかりにくいけど、欧州には、こうした音楽のシーンみたいなものがあって、それを取り上げる大小のフェスが数え切れないほどあって、それなりに沢山の人たちが来てくれるのだ。

さてオープニングはマルタンテトロ(TT),ミッシェル・オリー(ds)のDUO。  マルタンはオレにとっては、一番の音楽的な親友。たいていは年に1〜2回は、どこかのフェスで会う。このフェスでは彼はスター的な存在。今回やったのは前から噂に聞いていたリンゴスターに捧げられた作品。マルタンはリンゴをはじめとしたロックのイコンのようなドラムソロのパートのみをレコードコラージュ、オリーのほうは、その間、ドラムのセッティングからはじめ、ビートルズの全録音の中のリンゴ・スターだけになるパート(全部で十数か所しかないらしい)を譜面に起こしたものを忠実に再現、そしてドラムを片付けて出て行くまでをステージ上で。これはとっても面白かった。マルタンの演奏もだけど、こうしたおしゃれな、ちょっと微笑むような作品、オレは大好きだ。

ハミッド・ドレイク・Ds Percソロ  この人の演奏は、本当にいつ見ても感動する。素晴らしい。演奏スタイルがどうこうとか、どんな音楽とかいう次元じゃなくて、たとえば浜田真理子の素晴らしい歌声を聴いてただ感動するってのに近い。もうその音とビートにひたすら釘付けになった。楽屋では、なぜかオレやSachikoMは彼に好かれていて、ずっと一緒にいて、「座頭市」や「たそがれ清兵衛」の話でもりあがった。清兵衛の相手役の侍は田中泯だよ・・・と言ったら、あのかわいい目をまるくして驚いていた。いつかハミッドと田中泯のDUOを見てみたい。

ジョン・ブッチャー(sax),ローラ・コウリン(dance) ダンスは最悪、見てられなかったので、ブッチャーのサックスだけ聴いていた。彼のサックスの即興はいつ聴いても本当に素晴らしい。実は、今回は合宿みたいなかんじで、ジョンやマルタンと同じ家に宿泊、彼等と沢山話をすることが出来て、それもとっても面白かった。ジョンのやっていること、オレはすごい興味がある。本当にすばらしい演奏家だ。ところで今回は地元のダンサーとそれなりに活躍している即興演奏家とのセットがいくつかあって、多分フェスの運営上、こうしたセットが必要なんだろうけど、正直オレにはとってもつらかったし、組まされたジョンもかわいそうだった。音楽が聴こえていないダンサー、とりわけアテンションの強いだけのダンサーというのは、実に不快だ。

ブーカルト・バインズ(perc), アングハート・デイビス(violin), カンタン・ダボスト(el-g) 今回のフェスのなかでも最も静寂な演奏。針が落ちるような音ですら会場に響き渡るような、本当に緊張感ある素晴らしい演奏でした。弱音系の即興もいまや欧州でも完全に市民権を得て、この手のフェスにも普通に出るようになってきた。嬉しいことだ。数年前から考えると、すごい進歩。このへんは欧州の懐の深さを感じる。ブーカルトはぜひいつか日本にも着てほしいなあ。彼はベルリン即興シーンをアクセルなんかとともに引っ張ってきたひとり。アングハートはハープのロードリー・デイビスの妹、確か双子じゃなかったかな? 違うかな? 同じ目をしている。

ゲンドス・カムジリン(vo,馬頭琴)、ティム・ホジキンソン(reeds etc) ケン・ハイダー(ds perc)  ゲンドスはトゥバ共和国の歌手。倍音唱法での素晴らしい歌声を聴くと彼のソロをもっと聴きたいなと思ってしまった。バンドのほうは、なんというか、良くも悪くもぐずぐず、よれよれ、だれがリーダーというわけでもなく、なんとなく遠慮しあったような音楽だったけど、でも、まあ、中年男のよれよれさ具合は好きでした。

ポール・ローヴェンス(ds) デヴィッド・チェサ(contrabass) これはもう70年代からつづく欧州の伝統的なアコースティックの即興演奏。でも、古いとか、保守的な感じはまったくなくて、本当に上質の素晴らしい、そしてとっても自由な音楽でした。弱音から強い音まで、音響的なアプローチから、いわゆるフリー的なものまで。今やもう完全に伝統ともいえるこれらの手法をつかいつつ、非常に説得力のある演奏をしていて、感動しました。この手の、古典的な即興演奏って、実は、今も昔も、日本にはほとんど演奏出来る人がいなくて、そう考えると、これってやっぱり、欧州の民俗音楽なんじゃないかなって思うことあります。ちょうどジャズがかつてアフロアメリカンの音楽であったように。(日本でフリーと呼ばれているものは、その語法や、システムからして、まったく別のものだと、わたしは思っています)

ジム・デンリー(fl,sax) エディ・コワルスキー(sax) Sachiko M(sine waves) ジムはオーストラリアのフルートサックス奏者、エディは地元フランスの新人。これも素晴らしかった。2人とも素晴らしい管楽器の即興演奏家だ。通常の音楽では主役になることのない10khz以上の超高音を中心に、アタックの強いホワイトノイズが行きかう演奏は非常にわたしの好み。1時間、まったく緊張感が途切れることなく、またありがちな起承転結もなく、非常に硬質な、今の即興演奏でした。Sachiko Mも素晴らしかった。彼女は2年前のアルスエレクトロニカでの金賞受賞をへて、欧州ではすっかり安定した地位を築いていて、ここのところ、パリでの美術作品の個展や、AMMとの共演、ミニマルフィルムのパイオニア、アンソニー・マッコールとのコラボレーションが評判になったりで、もう若手というよりは、欧州シーンの中堅といった存在。演奏も非常に安定していて、かつ挑戦的。だれかが、ネット上で、彼女の才能はかなり特殊なものだ・・・というようなことを書いていたが、これにはわたしも同意する。

ウィル・グせリー(perc, electronics), ジェローム・ノッタンジェ(tape,electronics), ロベルト・ペトロビッチ(g, synth) 硬質な爆音系の電子即興演奏。 エレクトにクス奏者が何人もあつまって即興をやるというのは、この数年の欧州の大きな潮流でもある。大抵は「静かにはじまり、爆音でもりあがり、ドローンで終わる」みたいな、ありがちなパターンになってうんざりなのだが、彼等の演奏は、そうしたクリシェとは異なり、非常に繊細かつ大胆、フェスのラスト相応しい内容だった。ウィルはミキサーを演奏する直嶋岳史等とも日本で演奏していて、弱音の演奏も素晴らしいと聞く。今回のフェスのスタッフをしているジャン・フィリップ・グロスとともに非常に興味をそそられる若手ミュージシャンだ。

バル  実はウィル達の演奏のあとにもうひとつ、フランスの40年代から60年代にかけてさかんだったダンスミュージックBalのコンサートが最後にあって、なんと84歳現役の有名なアコーディオン奏者が来て(すいません名前メモしわすれました)、フェスのスタッフ達の組んだバンドと一緒に昔のフレンチダンスナンバーを演奏。このバンドがなかなか良くて、ザビエが見事なベースを演奏したり、バーにいた女の子が歌ったり、地元のおじいちゃんやお婆さんが見事な社交ダンスを披露したり。ここからは、これまでスタッフだった人たちが主役で深夜まで踊りまくってました。数曲はいいけど、何時間もだと、さすがにオレついていけないや。途中なんとドラムがウィルにかわってびっくり。彼普通のドラムすごいうまいですよ! しかも笑いながら背筋をのばして叩く姿と、そのビートの感じは植村昌弘にそっくり。

あ、自分の演奏のことを忘れてた。え〜と、わたしはというと、初日にマルタン、アレクサンダー・べレンガーとターンテーブルトリオを、2日目にギターソロをやりました。トリオのほうは前半は面白かったかな。まあまあって感じだった。で、ギターソロのほうは、CDで出たのとはまた違う感じで、プリペアドとイーボウを使った即興演奏を30分、それにいつものロンリーウーマンを15分。録音さえよければCDにしてもいいかなという内容でした。

ってな感じで3日間、インターネットや携帯から隔離されて、音楽漬けの毎日。ネオンもカフェもない田舎で時間を過ごすのは、正直苦手なんですが、沢山の友達とあ〜でもない、こ〜でもないなんて音楽の話やら、それぞれのお国柄の話をする平和な時間は、この手のフェスならではで、素敵な時間でありました・・・なんて普通にまとめてみたりして。ここには、基本的にはいいことしか、書いてないから、まるで夢のような世界だと読む人もいるかもしれないけれど、実際には、つまらい演奏や、あまり印象にないのだってあったし、ここで評価しているものでも、皆がいいと思っているわけではない。賛否がわれた演奏も結構あったのだ。でもまあ、宝物は落ちているものではなく、、誰かが宝物だと認めたものを探すのでもなく、なにが宝物なのかも含めて自分の体と足を使って、自分の耳で見つけ出すものだと思っている。そんなわけで、オレはこのフェス充分に楽しませてもらったよ。