気付くと小さいスペースが増えてきた
気付くと身の回りに小さいスペースが増えてきた。そんな気がする。
おかげさまで、オレや岩井主税がはじめた吉祥寺駅前の12畳のスペース『GRID605』は、看板も出さず、ネットの告知だけで、1年間、無事に続けることが出来た。秘訣は、これで食おうと思わないことと、なるべくラクに運営すること。なにしろ1年で30本しか公開企画を行っていない。月平均2〜3本。間借りのスペースだし、このくらいのペースで充分だ。身の丈を考えて、ラクに好きなことをする。高貴な趣味みたいに思われるかもしれないけど、でも、お金持ちではない僕等が、人生をかけて高貴な趣味をやることのどこが悪いのだ。自分たちの手の届く範囲で、手前で家賃が払える範囲で、まずは自分が居心地がよくて、かつ人も集まれる面白い場所をやることは、そんなに難しいことではないのだ・・・ということに、皆すこしづつ気付いてきたのかもしれない。
5月に友人が高円寺の路地裏に作った『GALLERY 45-8』はGRID605よりさらに狭い。開いているのは土日と祝日のみ。これだけでも普通の仕事を持っている人がやってるのがうかがえる。場所は木造アパートの1階。以前は古着屋さんだっと聞いている。とても居心地のいい場所だ。いつかここで、ご近所迷惑にならない小さい音でライブやれたらいいなと思っている。
http://d.hatena.ne.jp/gallery458/
もうひとつ。GRID605から徒歩3分。かつて焼き鳥の伊勢屋の本店があった場所の数件先にある自転車屋のピルの7階に5月末小さなカフェ『sound cafe dzumi』が出来た。しかもフリージャズや即興演奏のアナログレコードだけをかける店。涙がでるくらいうれしい。このお店の出来たくわしい経緯は店主泉秀樹さんのサイトでに詳しく出ている。http://www.shigotosoken.com/citacita/ac/magazine/no25.html
この中で特に気にいている言葉は
『自腹で、一人でやります。
賃貸物件ですので、家賃が払えなくなった時点で撤退です。』
の2行。大先輩に対して僭越な言い方になってしまうけど、ここに込められた思想がわたしは好きだ。
でもって、このお店のサウンドシステム、実にいい音で鳴っています。おまけに、井の頭公園の緑が一望出来てGRIDとは大違い。広々とした世界が見えるのは素晴らしい。オレはオーディオマニアではないし、だれそれの演奏は、このクラスのオーディオじゃなきゃ聴いたことにはならない・・・なんて御託を言う気もないけど(んなこと言うなら、スピーカーの前にすわってねえで生演奏聴けよって思うけどね)、それでもmp3やiPodあたりで、小さいヘッドフォンでほとんどの音楽を聴いている人たちをみると、どうなのだろうと思ってしまう。わたしは、本当にあのペナペナの耳元で鳴る音が耐えられないのだけど、それでももちろん仕方なく使うときもある。でも、みんな本当にあんな音で平気なの、と、正直思ってしまう。
僕等の世代は幸いウォークマンの出る前から音楽を聴きだし、わたしの場合は、時にジャズ喫茶で音楽を聴いて育っていて、当時の最高級のオーディオでアナログを聴いて育っている。それが記憶にこびり付いていることもあって、いい再生音の基準というのが体の中に染み込んでいる。今でもCDよりアナログの方が圧倒的にいい音に聴こえるのは、その基準がアナログ盤にあるからかもしれない。家でも最近はアナログ盤を聴くことの方が多い。CDですら、アナログに比べると音が薄くて嫌なのに、そのうえmp3とかになるともう・・・。mp3で聴くノイズやフィードバックのむなしいこと・・・。今の、特に若い人たちの多くは音楽をコンピュータとかiPodで聴いてるわけで、そのことは否定はしないけど、でもオレのブログを読んでいるような音楽にある程度以上の興味がある人たちには、アナログレコードをちゃんとしたオーディオ装置で聴くとどれだけいい音かというのを体験してほしいなあと、まあ、充分におっさんになってしまったわたしなどは結構切実に思うわけです。
おっと御託になっちまった。
なによりコーヒーが美味い、そしてオレの好みの音楽が強烈にいい音で流れている・・・こんな夢のような店が近くに出来ただけで、涙が出るくらいうれしいのであります。
(写真右上はGallery45-8、この上の写真はSound Café dzumiからの眺め)
余談になるけど、ここからの6月の井の頭公園のうっそうとした緑の眺めを見てると、日本は、もうまぎれもなくアジア、それも東南アジア的ですらあるなあと、つくづく思います。これ、飛行機で欧州から帰ってくるときも日本列島が見えると、まるで苔が密集するように緑が見えて同じ感想を抱くのだ。で、多分オレは、この感じが結構好きなのだなあと、都会なのに、苔のように強い緑が侵食して、かつ色彩感覚がでたらめなネオンやら看板があって人がごちゃごちゃ狭いところにいる東アジアや東南アジア(もちろん東京、大阪もそのなかのひとつ)のあの感じ、この店でデレク・ベイリーを聴きながら窓の外をぼ〜と眺めつつ思うのでありました。